第2話 ガンダムのパイロットは・・・・

宇宙に話を変える。

「トロワ、なんのようだい?」
金髪のまだ幼さが残る少年が呼びかける。
「いや、お前がウィナー家を継ぐと聞いたから来ただけだ。」
その質問に対し、いかにも寡黙そうな少年が答えた。
カトルとトロワである。

ウィナー家とは、多数の資源衛星を持つ資産家である。
カトルは実はその資産家の息子で跡取だったが、過去の大戦で、コロニー側としてガンダムに乗り込んだ一人の少年である。
その際、地球・・・OZという組織に、父親を殺されている。

「実際は、まだお姉さんが当主だよ。ぼくなんか、そんなにえらいわけじゃない。」
自分の身分を、本人は全く意識していないようだ。
「サーカス団も資産家も、隔てりは無いか・・・・・」
隔てりのなさに安堵したのか、はたまた少々不安なのか。
その口調からは判断することは出来なかった。
「そういうトロワはどうなの?サーカス団で働いているんでしょ?キャスリンさんは?」
トロワはサーカス団に働く一員として、今は生活している。
ガンダムのパイロットのときも、トロワはアクロバットをしながら登場という派手なパフォーマンスをしたものだ。
だが、いまは二人ともその機体は自爆してしまっている。つまり、ない。
兵器のない世の中が、実現できている証拠ともいえよう。

「キャスリンなら、問題は無い。俺がいなくてもサーカスはつぶれるわけでもないだろう。」
「そんなこといわないほうがいい。トロワ。君は重要なサーカスの団員さ」
トロワの感情のこもらない声に、カトルは静かに反論する。

「・・・そういうものか。いくらクーデターから3年たったとはいえ、まだまだ俺の風当たりは冷たいと思ったが・・・」
兵器に乗る兵士として戦ったトロワも、今ではそんなことを気にするものかと、カトルは少し気になった。
「もう、誰も覚えていない。そんなこと覚える必要がなくなったんだ。」
安心してほしいといわんばかりのその声。そしてその声の主は、近くのポットにコーヒーを入れ始めた。
「飲む?」
「頂こうか」
そういうと、トロワはコーヒーを飲みながらこう言った。
トロワ「いまだにまだ、モビルスーツを製造しようとする軍務官があとを絶たないな。この様子だと、あと何年かでまたあるかもしれない。」
「またある」とは、戦争のことである。なければ良いとおもうのが人間の心理だろう。
例え、表面上は望んでいるように見えても。
「そんな悲しいことは言わないで。僕達が表舞台に出る必要はなくなったんだから。永遠に」
シロップ型の容器を取り出し、カトルはトロワにミルクを勧めた。
「いらない。普通のコーヒーで十分だ。そこまで迷惑をかけたくはない。」
「そうかい、トロワ?」
感情のない声も、昔から見たらずいぶん変わったものだ。
元々温もりのある心をもっていると、カトルはわかっていたのだろう
「まぁ、俺達にできることはない。どんなことがあろうと・・・な」
「大丈夫だよ。トロワは心配性だね」
心配性といったカトルは、暗い話から別の話に切り替えた。

「ねぇ、僕はこれからこの資源衛星でずっといるけど、トロワはどこいくの?」
別れが惜しいのか、はたまた何時会えるかを楽しみにしているか。そのどちらとも取れる言葉を発する。
「サーカス団がいくところは、決まってない。いずれここに来るとは思うがな。」
無表情だがどこかぬくもりがあるその言葉には、これからの運命を暗示するかのような不安めいた声が混ざっていた。
いや、カトルがそう感じただけだろうか。
「そう、ならいいんだけど。もうあえないってのも、なんだかさびしいから。」
「そういうものか。」
そういうと、トロワはコーヒーのカップを置いて、こういった。
「サーカス団として情報は色々入手するのだが、どうも毎回同じ客がいる」
「結構じゃないか。常連は大切だよ?トロワ」
唐突な発言に、カトルは軽く受け流す。その言葉に、どんな意味があるのか知らずに。
「ただの客ならいいのだがな。だが、その毎回来る客は、コロニーを影で動かしてる人物・・・L4コロニー郡管理局長。ライザ・フォースだ」
「良かったじゃないか、そんな人がくるなんて・・」
「あいつは俺の芸を見てるわけじゃない。俺を見ている」
スパイだったころの勘か。それとも単なる誤解なのか。
カトルには後者に思えたが、そのトロワの顔は無表情の中にも暗さがあるように見て取れた。

「考えすぎだよ。大体僕達はもうなにももってないし、これ以上なにかあるわけないよ」
「確かに考えすぎたかもしれない。だが、どうも気になるのでな。」
いつもながら、人への気遣いを忘れないトロワと、それを心配するカトル。
またもや暗くなってしまった話を、終局ということで、カトルは止めさせた。
「トロワ、それはいいんだけど・・時間大丈夫?」
「ああ、そうか、もうそろそろ帰らないとな。」
またいつか会えるだろうと、いやどんな形でもすぐにまた会えるだろうとカトルはそう思ったが、
その意思を感じ取れていないのか、トロワはドアを開けて出て行った。
「う〜ん・・・なんとなく気になるのでな・・・か」
トロワの言葉に何回か頭を捻ると、
「なんでもないといいんだけど・・まぁいいや。」
コーヒーを飲みながら、カトルは目の前の書類の束をみて、再び仕事をやり始めた。

トロワがシャトルに乗って、サーカス団のテントに帰ってきた。
「おかえりなさ〜い、トロワ」
「ただいま、姉さん」
記憶喪失になった後にも、キャサリンのことを姉さんと呼ぶことにしているようだ。
そのほうが親しみがもてるのか、単なる気分なのか。キャサリンには良く分からなかった。
「久しぶりの旧友との会話は楽しかった?」
「ああ、とっても・・な」
どこか心配事があるというそぶりを、キャサリンは感じ取ったらしい。
「何か気になることでもあるの?」
「いやなんでもない。たわいも無いことだ。」
誤魔化すように違う話をし始める。
トロワ「姉さん。次の公演地は?」
多少、キャスリンは考えるような顔をして、
「覚えてないから団長に聞いてくるわ」
そういって、駆け出していった。
団長「次の公演地?L4コロニー郡だが・・」
キャスリン「なんで?」
団長「どうやら、ライザとかなんとかのお偉いさんが見たいと・・・」
キャスリン「ま〜た?お偉いさんもひまなことねぇ。」
”お偉いさんだからこそ暇を持て余すんだろうけど”
そんな半分幼稚めいた感想を浮かべた。
団長「そういうな、俺たちに目をつけてくれなければ、俺たちは毎日生活するのが精一杯なんだから。」
キャスリン「はいはい。」
そういうと、キャスリンは駆け出して、トロワに伝えた。
キャスリン「とにかくこういうわけなのよ。」
トロワ「・・・ライザか・・・」
キャスリン「ま〜ったく、たまには他の普通の人たちの前で見せたいわよね。」
トロワ「・・・・」
無言のままトロワはテントに入っていった。

こうしてガンダムのパイロットが仕事に励んでいる間にも、地球圏統一国家の内部では、また新たな問題がおきていた。

「軍務官ギリメル氏のモビルスーツ建造計画には重罪をもって、償いとするべきでしょう。なぜ政府は軽い罪ですませたのでしょうか」
そう強く話す髭の薄い、若干まだ若さの残る青年、メイリスは、大統領の言葉に対して関心を示していた。
「このモビルスーツ建造についての憲法の規定は、ピンから錐までさまざまだ。未遂と済んだだけでは、罪を重くすることはできない」
一方、大統領はそれを重要と見ているのにもかかわらず、重く罰することを避けていた。
やはり、政治とはこういうものだろう。
何かに歯止めをかけるには、何かにスピードを出して、調和させなければならない。
「しかし、未遂と済んだとはいえ、こちらが告発しなければ、またモビルスーツなどを作り出したでしょう。そうしたことも考えると、未遂とはいえ、罪は重いもので当然と思われますが、大統領、いかがなものでしょう」
口達者なそのメイリス議員には、その程度のことは分かっていた。
いや、分かっているからこその発言なのだろう。
その目の奥には何が浮かんでるのか。
「モビルスーツ建造についての規定どおりに対処しただけである。そして、尚且つ、告発する前に一定時間のモビルスーツの建造を止めていたという報告も出ている」
「ですが、その報告書とは別に私はこの文章を持っています。」
メイリスは報告書を提出した。
あいも変わらず重々しい空気が流れる議会である。
大統領と野党の答弁。
この雰囲気は昔から変わらないものだろう。

「この報告書によりますと、モビルスーツサーペンドを建造する際に必要なバーニア、モビルドールトーラスに必要なMDシステムを得るために、ある程度時間がかかると。それまでばれないように水面下での行動をするという・・・・。コロニー内部との電報の一部を聞き取りました。」
議員席で聞いていたゴルダゥはその言葉に耳を疑った。
(コロニー内部・・・だと。だとするとまた紛争がおきかねないが・・ここは・・・)
大統領は、その発言に対して最低限の歯止めをかけようと努力した。
「明確な情報と言えるかどうかは疑問である。また、仮にコロニー内部との通信があったとした場合、関係悪化につながる」
その様子さえも簡単に見て取れたのか、追い討ちをかける。
「だが戦争での命と、一人の罪を天秤にかけることはできません。大統領、閣下の・・・」
「待った。」
ゴルダゥは急に声をあげた。
「なんですか、ゴルダゥ議長」
急な発言に、少しだけメイリスは途惑った。
ゆっくりとゴルダゥは息を吐くとこう言った。
「双方の提供された報告書の正当性は、どちらも判断しがたい。閣議会議を開き、原因の究明に努めるが最適と思われる」
「ゴルダゥ議長。閣議会議にて正当性を判断する場合に隠滅され・・」
しかしながら若さの残るメイリスも、詰めが甘いのか、スグータフに止められてしまう。
「それ以上は失言ですぞ、メイリス議員。」
そういって、議会は閉会になった。
「ゴルダゥ議長殿、助かった。あの場で追求されれば、私は血に飢える若い者どもの説得はできまい。」
(コロニー内部で戦争を目論むもの・・・)「コロニー内部にてなにかあったのでしょうか。この状態ではまだなんとも判断できかねますが・・・」

「わからん。だがあの報告書は、ゴルダゥ議長殿、貴方が止めるまでも無く、正当性が明らかだと思われる。」
「なぜですか?」
「独特の署名をしているからだ・・。ただ、その言葉自体あまり解読は楽ではないが。」
「何か意味があるのでしょうか・・早速調べなければなりませんな」
そういうと、大統領と、議長はそれぞれ席を後にした。

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