13話 勝者の決定権

「随分と分かりづらい答えだな」
そう真っ先にライザの発言に返したのはトロワである。

やはり俺らを狙っていたか。

「そもそもお前達は、戦うことでしか平和を得ることはなかった。」
自分の最初の言葉の不足さを補うような形で話し始めた。
「全ての世界を統治する方法は勝利による最終的な結論で幕を閉じる。
勝者と敗者の関係がある限り、形式的にも強者は存在し、
弱者もそれに乗っ取った形で現れる。

貴様らはこの平和を「戦争」という形で得た。そんなにも戦わなければ「平和」は得られないものか。
そうなのだろう。物事の争い無しに解決するのは・・・不可能だ」

長い話を詭弁と取ったのか、五飛はモニターを睨み付けた。
「早く結論を出せ。意味の無い議論をするつもりは無い」
しかしながら、その言葉の後に銃口が頭を突いた音がした。
「強がりな奴は嫌いでね」
少し真剣な顔をしてクラスは五飛を牽制する。

その様子を見たが、溜息を漏らし、ヒイロは口をあける。
「お前の言いたい事は分かった。
俺は返す言葉はない。全てお前の言ってることは正義に聞こえるのも
また事実だ。だが・・・」
少し大人びた彼の目は、明らかに躊躇の無い澄み切った目であった。
「お前が何を言おうと戦いを止めてみせる。」
チラッととなりの方を見ると、デュオとカトルとトロワはかすかに微笑んだ。
五飛だけ逆の方向を向いた。だが、決して軽蔑の意味をこめているわけではないというだけは
分かった。
「そうさ、やってやるぜ?迷っている時間ないしな」
そういったのはデュオだ。

何のための戦いかわからないなんて、なんども経験してるしな。

頭の中でそっと考える。

珍しく考えるより行動のヒルデはデュオを心配していた。

見た目異常に強くないくせに。黙ってみてたら強がっちゃって。
やっぱ私がついてなきゃ駄目なんだ。

「君達がそういうと思って、用意したんだ。」
ライザの口からは信じられないような言葉が発せられる。
「懐かしいだろう。これで平和の戦いを演じるといい」
続けて出た言葉にすぐさま反応したのはカトルだった。
「そんなものは要らない!僕達は・・・僕達は戦わないんだ!」
自分の仲間の言葉を代弁するかのように彼はそう放った。
無論、自分達がここに来たのはガンダムを破壊すると言う目的がある。
だがこの状況から見て、間違いなく言える事がある。
俺達は罠にはまった。

爆破できない以上ここからガンダムを奪って自爆するしかない。然しながら
それ自体にコロニーが地球を攻撃する理由を与えてしまう。その事に何故早く気がつかなかったのか?

「長居するつもりはねぇ、殺すか牢に入れるか早くしてもらいたいな」
めんどくさそうなデュオはさっさとしろとばかりに溜息をつく。
「良いだろう、連れて行け」
最後の言葉は銃を構えたテクス達にいった言葉だ。
軽く敬礼すると彼らは銃を構えたまま牢に向かってゆっくりと前に押し出しながら進んでいく。
廊下の曲がり角を左に曲がったところでネリィが一言口にした。
「お前らさっさと走れ。」
一瞬どういう意味だかわからなかった。そのため全員だれも走り出さなかったのも無理は無い。
テクスはネリィに疑いの目を向けつつも、その光景をじっと見詰めているだけだった。
「良いから走れ、殺すほど馬鹿じゃねぇ」
「信用できるのか?」
トロワは無表情で聞き返した。最も当然の質問だ。
「そういうなら俺がここでお前等を殺しても良いんだぜ?」
「分かった」
返事を聞くと直ぐに5人は走り出し、廊下にかすれるような小さな音が響いた。
テクスが口を開いたのはその音が完全に聞こえなくなってからだ。
「どういうつもりだ」
「俺は地球とかコロニーとかの復讐になんざさらさら興味が無くてね。ただ戦いたいだけだ」
半ば楽しんでいるような声を出すが、少しばかりテクスはその言葉に首をわずかに横に振る。
「この作戦の目的は戦う意思にあるのではない。復讐なのだ」
やや弁解口調に響くその声にネリィは若干口をにやけさせた。
と、同時にユリウスがネリィを擁護するかのように口をあけた。
「固いのよ、あんたは。第一戦ってみたいのはあんたも同じでしょう?あそこで黙ってみてたところを見ると。」
固く響いたそのかすかなおかしさを見抜いたか、ユリウスは承諾を取るかのように目をテクスに向けている。
「同感、俺もちっと体なまってたしな。」
クラスも賛同しテクスに対し目を向けた。しかしテクスは若干の非難の目線をクラスに向けていた。
「個人的な感情だけでは作戦は実行できない。兵士としてそれは理解してもらわなくては困る。」
あいも変わらず固い口調だが、次の言葉で少し口調がやわらかくなった。
「過ぎた事はどうしようもない、がな」

その頃ガンダムのパイロットは廊下を走りガンダムに乗っていた。
理由が何であれ、このままの状態であれば戦争の道具に利用される事は明白だからだ。
後で爆弾を仕掛け破壊する事も可能である。最も、全員が全員、まだライザの手の内にいることは分かっていた。
「ヒルデ、お前は俺の後ろにいろ、ちょっと狭いけど我慢してくれ」
「良いわよ、その代わり壊さないでよ、まだ死にたくないから!」
ヒルデは多少笑って答えた。
「行くぞ、一気に離脱する」
ヒイロの冷めた声と同時にガンダムはモビルスーツエレベータを降り、外へ離脱した。
宇宙空間に放り出されたと同時に5機のガンダムはバーニアを一気に噴射した。
「こっからどうするかだ。」
通信機の電波にのせて声をあげたのはデュオだ。
モビルスーツ1つがバーニアで移動できる距離などたかが知れている。
地球までのエネルギーなど、あるはずもない。なにより、製作途中である事が痛手だった。
「HED56の方角に地球への中継の為の宇宙港がある。そこへ一先ず行くしかない。」
無表情のままトロワは返した。
だがその指示に五飛は過酷な現実を付け足した。
「素直に受け入れてくれるか?ありえん事だ。間違いなく捕虜になるぞ」
「そうだな・・・・」
現状でモビルスーツを所持しているのはプリベンターだけだ。他の組織には無い。
当然ながら、5人の少年達がモビルスーツ---ガンダムを所持しているとなれば、少なくとも1週間は抑留されるだろう。
そして、さらにレーダーが厳しい現実を知らせた。
「4機です!後方から接近してきます!」
カトルは叫びざまスロットバーを調整しモビルスーツを反転させた。他のガンダムも体制を後ろに向ける。
「ガンダムタイプではない、が、気をつけろ。金属反応が極端に低い。」
ヒイロの言葉が通信機で他の4機に知らされたとき、前方のモビルスーツから通信が割り込んできた。
「ガンダムのパイロット・・・だったねぇ・・・。死んでもらうよ。」
残酷な事を平気で口にした少年はネリィだった。明らかに先ほどと表情が違う。
だがその表情を見れたのも一瞬。通信は途絶え、ビームレイピアを構え、突っ込んでくる。
「は、速い?!」
デスサイズに向けて突っ込んだ攻撃は間一髪横へ反れた。
その反動で隙ができたと思ったか、デュオはツインビームサイズを振り下ろす。勿論、致命傷を与えないように
出力は抑えていた。
「トーラスなら確かにかわせないねぇ。でもさ・・・・」
機体を急速に回転させビームレイピアで受け返す。
さらに一気に離脱した上で横一線にレイピアを構えデスサイズに襲い掛かる。
鋭い金属音が鳴り、コクピットを揺らした。
コクピットのフローコーティングシステムで衝撃は吸収されたが、デュオは焦っていた。

俺がかわしきれねぇだと?

焦りが頭をよぎった。通信機からは遊ぶような声が響く。
「遅いんだよ、とろ過ぎる!潔く死にな!」
ネリィの叫びをかき消すかのように、デュオは叫びをあげ突進した

後書き
なんか疲れた・・・。

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