小説1話 理想の実現

マリーメイアのクーデターから3年。

ヒイロ達は18歳になり、皆それぞれ別の道を歩き出していた。

「リリーナ、紅茶をくれないか。」
マグカップをリリーナに手渡しながらそういった。
「わかったわ、ちょっとまってて。」
昔とはまるで違う口調のヒイロに対し、リリーナはそっとお湯を沸かしお茶を入れた。

ヒイロとリリーナは、あのクーデターの後、同じ道を歩み、リリーナはヒイロの許婚である。
許婚になったときに、デュオ達に手紙を送ろうとリリーナが調べて送った以後、まだ連絡は取れていない。
「来ないわね、デュオ君」
来るのを待ち望んでいるのか、リリーナはそう呟いた。
”挨拶ぐらいしないとね。”
上流階級のお嬢様らしい考えとも言える。なにより、自分の相手も昔はテロリストだったのだから。
優しすぎるのだ。
しかし、そういう考えを察してはいないのか、ヒイロは
「きたければ来るさ。」
と言う。
”あいつらにはあいつらの道があるからな”
顔を少しだけ笑い顔に歪ませると、それをなんでもないことのようにテレビをつけた。
「地球の平和は夢じゃないって、実感できるわ。ここにいると。」
リリーナの口調には穏やかな心が見て取れた。
「俺たちは、後は普通のように過ごすだけだ。歴史の表舞台から消えた俺たちは。」
若干皮肉っぽくいった言葉に、ちょっと前の現実を思い出す。
「それが私たちの実現したかったことよ。なにも表立って出る必要は無いわ。」
笑えないその過去に別れを告げるかのように、明るく笑う。

リリーナはヒイロにお茶を入れた。アールグレイだ。
と、そのとき家のチャイムが鳴った。
「は〜い。あら、デュオ君?!」
あいも変わらず黒い牧師姿の少年が目の前に現れる。
「久しぶりだなぁ、ずいぶんとまたおあついことで。」
皮肉たっぷりの言葉にヒイロは軽く赤くなった。リリーナはその様子をみて笑っている。
「ヒイロ、久しぶりだなぁ、3年ぶりか?」
ちょっとした過去を思い出しつつ、軽く挨拶をする。
「どうした。こんなときに。」
自分が送っておいた手紙を忘れていたのか、なぜここにデュオが来るのかが少々不思議がっている。
「結婚祝のご挨拶だ。忘れたわけじゃないだろ?」
だがその言葉に対する言葉は本来”NO”だった。だがそれを言うわけにもいかず、喉もとで言葉が止まる。
「・・・・まぁいい、とりあえず上がれ。」
辛うじて言った言葉に若干の違和感を覚えつつ、
デュオは言われたとおり玄関から上がって、どかっと椅子にすわった。
「お茶はいる?」
目の前に置かれたポットをデュオは軽く見て、
「ああ、いらねえ。アールグレイのちょっと変な匂いは嫌いなんでな。」
と言った。
「そう、じゃあコーヒーをいれようかしら」
コーヒーの蓋をあけながら、デュオに尋ねる。
「んじゃもらっておこうか、お嬢さん」
これが地なのだろう。気取ってる気はないが、言葉にちょっとした癖がある。
「結婚祝か。しかし、お前、ヒルデはどうした。」
パートナーと一緒に来ないところをみると、わけがあるのだろう。
そう思ってヒイロはデュオにたずねた。
当然である。
「あいかわらずジャンク屋の財務処理やってるよ。ちょっと理由つけて出てきただけだ。」
当然のその質問に対し、軽く答える。
「そうか。とするとお前もやっているのか。想像しがたいが・・・」
「これでも几帳面なんだよ、こういうことは。計算はヒルデに任せて、俺は実務だ。」
仕事は順調らしい。どうやらその様子を見てリリーナは安堵した。
「そうなの。ヒルデさんに迷惑かけてない?」
「迷惑かけているって、言い方があんまり良くないぜ?お嬢さん。第一俺はあいつに迷惑なんかかけたかねぇからな。」
余計なお節介だとばかりに、すこし早口で話すデュオ。
リリーナとヒイロは少し笑いながら、リリーナはさらに話題を振った。
「ヒルデさんと結婚はしないの?」
あまりにも率直な質問に、傍らで聞くヒイロも少し咽たようだ
だがその質問を向けられたデュオにとっては、咽るどころの話ではない。
来た先から大恥をかくまいと、多少焦りながら
「な、なんだよ、そ、それは!俺はなぁ、別にあ、あいつが好きだとかそういう感情はな、、ないぞ、た、ただその、なんつーかあいつがいるとほっとするというか・・・」
といったが、話の途中でリリーナは率直に聞く。
「それは好きと同じよ。堂々といったほうがいいわ。」
隣で見ているヒイロにとっては、その光景がおかしく見えた。昔は笑いもしなかったその少年が。
「お前もお前でずいぶんと酷なことを言っているな・・・・リリーナ。」
そういうと、デュオの慌てぶりをみて二人そろって笑い始めた。
「なんだよ、べ、別にいいじゃねぇか。」
一人デュオは膨れた。
”やれやれ、良家のお嬢様ってのは、とんでもないことを聞くもんだぜ。”
心の中でデュオは、少しだけ結婚祝に来るんじゃなかったと思った。

一方だが、五飛はというと・・・

「え、プリペンダーの仕事やめるの?」
サリィはあまり驚いてはいなかったが、やめる理由を問いただすかのように聞いた。
「こういう仕事は俺にはどうも向いていない。軍務官をやりはじめようと考えている。」
「そう、ならいいわよ、別に。私はプリペンターの仕事をやっているわ。」
そういうと、サリィは仕事に戻り、情報を整理していた。
「少しぐらい止めてくれてもいいものだが・・・まぁいい。」
感情の芽生えかどうかは定かではないが、ぽつりと五飛は言った。
そう呟いた後でも五飛は軍務官育成係として働き始めた。
もうそれで働きながら1年にはなるだろう。

「モビルスーツの無い平和な世界など、想像したことも無かったな。ましてやこの俺がこんなところにいるなど・・」
目の前にいる訓練生を見ていると、まるで昔の境遇を思い出すかのように1人愚痴らしきものをいう。
そしてなにより、五飛自身、最初はこの平和になじめなかったのだから。
意識を本来の自分の職務に戻した。
「非常時のための特訓なんだ、気張ってやれ!」
「は!」
訓練生が声をだす。
「もう少し声は大きく!自分の頼りない姿など、他人にさらけだすな!」
五飛は声を荒げた。

自宅に帰るころには、サリィはすでに家に居た。
「・・・・」
”ただいま”の一言も言わず椅子に座る。
サリィ「あら、はやいわね。どうしたの?」
ただ同居しているだけ。といえばそうだが、なにかしら少し不自然な感じがする。
「今日の飯は?」
なんとなく問いただす五飛に、
「地中海風リゾットよ。」
と答えたのだが、五飛はその答えに半ば慣れたとばかりに
「またそれか。お前の得意料理か。」
という。
「そうじゃないけど、おいしいからなんどでも飽きないのよ。」
頭の中で、”そういうものか”と思いながら、五飛は筋力トレーニングを始めた。
ガンダムのパイロットから脱却しても、五飛はあいかわらず鍛えていたのだ。
「とりあえず、ここ、おいとくわね。」
テーブルの上に、皿を置く。
どうやら五飛は別段嫌いとは思っていないらしく、
「ああ。」
という返事をした。

不自然な関係だが、二人してなんとなくわかっているのだろう。
それにしても・・
「サリィ、顔が青い」
少しだけ心配なのか、はたまた偶然に問いただしたのかはわからないが、
五飛はその言葉に続けてさらに話しを続ける。
「なにがあった。貴様がそこまで顔が青くなっているのは俺は初めてみるが・・」
その言葉にサリィは少しだけ顔を無理に笑わせる。
「これはまだ秘密だけど、軍部の上の方が密かにモビルスーツの建造を企てたらしいの。それでこちらはその情報整理に忙しくてね・・・」
昔は別段何ともなかったそのことも、今ではれっきとした犯罪である。
地球圏統一国家になったあとの地球とコロニーの関係は、いたって良好だった。
なによりも、ほとんどの民の意思が「平和」を求めるものだったこともその良好な具合から見て取れる。
しかしながら、一方でまた戦いの中に身を置きつづけたものには、なにもなかったのかもしれない。
「そうか。この平和な世界が永遠に続くかも、怪しくなってきた気がするな」
ちょっと顔を歪ませると、五飛はだれに聞くわけもなくそう問いただす。
「まだ未然に防げたからいいけどね。これ以上こういう事件がないように勤めたいわ。お互いね。」
五飛「・・・」
五飛は沈黙したが、サリィはこういった。
サリィ「食べなさい。食べないと、おなかすくわよ。」

ああ、わかった。そういうと五飛はリゾットを食べ始めた。

話は戻るが、再びヒイロ達の話だ。

「それにしても、最近モビルスーツを建造しようとする政府上層部がよく取りざたされるな。全部捕まってるけど。」
飽き飽きしているかのようにデュオは言った。
”そういやこのまえもMSパーツの注文があった気がするなぁ・・”
ジャンク屋をやっているデュオは、規模が小さいながらもそれなりに人気があるところである。
なにより、主人の明るいその性格が、誰からも好かれる原因だろう。

「まだだれもが望むというわけではないのね、平和とは・・。でも、そのうち実現するわ。こうやって平和に暮らしていくうちに・・ね。」
リリーナは自信を持って言ったのだろうが、ヒイロはその言葉に対してあまり肯定的な意見は出さないようだ。
「どうして今になってモビルスーツ建造計画が持ち出されるんだ?」
リリーナの意見に対して否定的にも思える発言をする。
「やはり、ゲリラ派などに対する力の無さが訴えられてるからな。」
何時の時代にも政府に不満をもつものはいる。それが当然であるからこそ、また変革というものがある。
「まぁいい。どうせ俺達には関係の無いことだ。」
話が暗くならないように、そこで話を中断させた。
「ピザが焼けたわ、ヒイロ、食べる?」
焦げたいい匂いがオーブンから漂う。
「ああ、食べる。どんな味だ?」
ヒイロはちょうどお腹がすいていたのか、少しだけ明るく声を発する。
「ちょっと・・・焦げてるけど、鳥のささみチーズのピザよ。どう?」
「・・・ありがとう」
ヒイロが珍しく礼を言う。いや、昔の自分からすればだが。
「お嬢さんの手作りか、んじゃおれも食べていいかな?」
いい匂いにつられてデュオも食べてよいのかと聞く。
「どうぞ、おいしいと良いのですけれど。
明るい笑顔でそういうと、ピザを出して、ナイフで切っていった。
そして、皿におくと、皆一口ずつ食べて一言言った。
「・・・おいしい・・・のか?」
ちょっとおいしくないのか、リリーナに聞こえない程度の小声で、ヒイロは苦笑いをしながらそういった。
「さ・・さぁ?」
デュオは小声で反応する。
「やっぱ不味い?」
ちょっと不安なのか、二人に聞く。
「大丈夫だって。いやおいしいよ。十分。」
慌ててフォローするデュオに続けてヒイロも
「ああ、俺はおいしいと思う。」
その2人の発言に、疑わずにリリーナは安堵の表情を浮かべる。
「あ、もうこんな時間だ、帰るよ、じゃな!」
外の暗さをみて、仕事がまだ残っているのか、帰っていった。
”あんまりおいしくなかったな・・・・”
車で走りながらそんなことを考えていた。
やがて家に着くと、明るい声でデュオは
「ただいま〜、腹減ったー!」
と叫んだが、ヒルデはそのことをお構いなしで、
「お帰り、デュオ。今日は早速さぼってた分の仕事にとりかかってもらうわよ。」
まるでサボった事をばれているかのように、デュオに仕事の束を見せる。
「帰ってきて早々やめてくれよ、疲れてんだぜ〜?」
仕事をやってきたとばかりにそう話すが、どうやらばれているようだ。
「そうだ、外でくわねぇ?」
話をその束からそらすかのように、外食する話をし始めた。
「そんなお金あるの?」
ちょっと怪訝そうに聞くがデュオはあいもかわらず笑顔のままだった。
「まあいいわ。家に帰った後でも仕事はやれるわけだし。」
珍しくすぐに返事をだすヒルデに、すこしばかり違和感を覚えたのだろうか。
デュオはちょっとだけ不思議そうな顔をしていたが、
「んじゃあ行こうぜ。」
そういうと、デュオは扉を閉めて出て行った。
しっかりと手をつなぎながら。

後書き。
前より大分質がよくなったきがする。
今までのストーリーは抜きの進行形で。
それにしても、最初は平和ですね。

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